大阪都構想と2020年住民投票ー疑問に答えます

現行制度と大阪都構想

大阪市で、2020年11月1日に投開票される、大阪都構想に関する住民投票の様々な疑問について解説します。

大阪都構想とは

最初に用語説明をすると、「大阪市」=「大阪市役所と大阪市議会」を廃止して、代わりに市が持つ固有の機能と役割を複数の特別区(2020年住民投票案では4つの特別区)に移管し、市が政令市として任された府の役割を大阪府に統合し一元化する大都市制度。
大阪の統治機構改革とも言えます。詳細は右記参照 →大阪都構想の狙い

市に替わる特別区も市に準じる機能を保持

「○○区」と示され、2020年現在の大阪市内の区と呼び方は似ていますが、従来の区(以下、行政区)と果たす機能が全く異なるのが、特別区です。
ちなみに、東京都にある23の区は特別区です。

特別区が行政区と大きく違う点は、下の図にある通りです。
市町村と特別区と行政区

特別区(上図の中央部)では、区長及び区議会は、選挙で住民が選び、条例を区議会で制定できますが、行政区(上図の右側)では、政令市の市長が部下の職員の中から区長を選び、区議会はなく、条例制定や課税、予算編成などの権限もありません(→2020年現在の大阪市や横浜市など)。

確かに下表にあるように、市町村と若干の相違はありますが、市と同様に、住民にもっとも近い基礎的な自治体であります。

特別区と市町村の相違点

特別区の仕事への府(都)の関与は、市町村の仕事への道府県のそれと比べて強く、住民自治の自主性は、市町村より少し弱まります。
  • 税制面では、通常であれば、市町村税である都民税(市町村民税法人相当分)、固定資産税、特別土地保有税、事業所税、都市計画税が、府(都)税になる。
  • 特別区は上下水道・消防などの事務に関しては単独で行うことができず、特別区の連合体としての府(都)が行う。
  • 都市計画(商業地や住居地域など用途地域の変更など)や建築確認も、一定規模以上のものは法令で府(都)に権限が留保され、府(都)が直接事務を行う。

 

特別区を設置できる要件

2013年に大都市地域特別区設置法(略称・大都市法)が全面施行され、東京都以外の道府県でも、「人口200万人以上の政令市、または政令市と同一道府県内の隣接市町村の人口の合計が200万人以上」ならば特別区に移行できるようになりました。

4つの特別区の人口

4つの特別区(黄色の塗りつぶし箇所)と府内の主要都市を人口で比較したのが下表(2015年(平成27年)の国勢調査に基づく数字)

自 治 体 名 人 口
堺市 約84万
北区 約75万
中央区 約71万
天王寺区 約64万
淀川区 約60万
東大阪市 約50万


北区と淀川区では最大約15万人の差があります。

4つの区に割る基準

2020年の住民投票案では、淀川、北、中央、天王寺の計4つの特別区に分けられます。
前回(2015年)の住民投票では5つの特別区に分けられる案でした。
今回は、各区の税収に目的税交付金や財政調整制度を活用した調整を行い、財政状況や人口の格差をなるべく均等にし、4つの区でスタートすることが大阪府市の法定協議会で決定しました。

下表は、特別区移行後の大阪と東京の特別区を、財政歳入の観点で比較。

東京の千代田区と世田谷区の格差が約3倍であるのに対して、大阪で最大の中央区と最小の北区の格差を1.2倍。1.5倍未満に抑えています。
自 治 体 名 歳入額
(1人あたり)
千代田区(東京都) 約60万
中央区(大阪府) 約26万
天王寺区(大阪府) 約24万
淀川区(大阪府) 約23万
北区(大阪府) 約22万
世田谷区(東京都) 約20万

日本にある都と特別区

2020年時点で、日本では東京のみです。
かつて、東京が「東京府」と「東京市」から「東京都」に移行し、「東京市」を東京23区に再編しました。
大阪も「大阪市」を「特別区」に移行させ、行政改革を行う点は東京と同じですが、1点、大きな違いがあります。

都と特別区の成立過程の違いです。
東京の場合は、第二次世界大戦中の1943年7月1日に内務省主導東京都制(東京府と東京市を廃止し、新たに東京都という広域行政機関かつ基礎的地方公共団体を設置することを定めた日本の法律)が施行されました。

終戦後の1947年3月15日、旧来の東京35区は東京22区に再編され、同年5月3日の地方自治法施行により特別区になりました。

大阪の場合は、大阪市民の住民投票という民主的手続きを経ないと、都区制度(大阪府と特別区)に移行できない点
です。

大阪都構想の狙い

主に以下、2点です。

  1. 大阪府市の分断(府市合わせ)を防ぎ、無駄な税金がかからないコストパフォーマンス(費用対効果)が高い行政運営を制度上保障することで、住民の税負担減と財政赤字を生みにくい構造を維持する。
    より具体的に説明すると、大阪では、府と市のどちらも同じ事業や施設を運用し、どっちがスゴイ化の自慢競争をして、同じ目的用途に二重に税金を投入される無駄な構造と体質(=二重行政)が温存されてきました。
    大阪都構想は、政令市(※)である大阪市を廃止し、市の仕事のみに特化した特別区に変更する制度なので、府と市が扱う行政と政治の分野が厳しくはっきりと分別され、二重行政を解消できるのです。
    ※都道府県と、政令市ではない市や町村の関係では、行政も政治も内容がかち合わず棲み分けされ、分業する体制になります。
    しかし、大阪市の場合、普通の市ではなく政令市(政令指定都市)という特別な市です。
    政令市は、都道府県の権限の多くを委譲されてます。
    もっと分かりやすく言えば、政令市とは、都道府県と同等の仕事も任された市です。
    大阪市が政令市であり続ける限り、大阪維新が府と市の行政権と議会与党を握るまでの市は、府と同じ領域で張り合って
    、権限争いと無駄な競争に税金を投入する歴史を繰り返してきました。
    他の道府県と関係政令市の関係と比べて、大阪の府市間の仲の悪さは際立っています。
    <二重行政の代表例>
    大阪市のWTC(高さ250m)に対抗し、大阪府がそれより、0.1m高いだけのりんくうゲートタワービルを作って競い合い、合わせて2000億円近いお金が使われたことです。
    大阪市役所と大阪府庁のメンツ争いの様相を呈し、大阪特有の事象です。
  2. 古い体質の議員を多数、生み出す大阪市議会を廃止し、新しい大阪区議会を創設する。
    補足すると、非常に狭いエリアに人口が集中する大阪市をさらに24区で区割りされた狭い選挙区では、一部の既得権益層と長く深く癒着していても、何度も当選できる土壌になっています。
    この既得権益化した議員の温床である大阪市議会
    を廃止し、大阪都構想にある4つの特別区に再編されれば、より広い選挙区から議員を選出する選挙制度になるので、選ばれる議員の体質も変化するというわけです。

都構想実現によるメリット

主に以下、2点です。

  1. 二重行政の解消
    大阪都構想推進の背景には、広域行政と地域行政のすみ分けという考え方があります。
    260万人の人口を擁する現在の大阪市は政令市であり、市が広域行政と地域行政の双方を担っています。
    が、広域行政について、広域自治体の大阪府との事務分配が不十分で、府と市の間での権限争い、府と市の双方で投資が行われる二重投資の問題が生じています(二重行政・府市合わせ)
  2. 特別区設置で、地元密着の質が高い住民サービスを提供
    大阪市は基礎的自治体でもあり、市下に24区を設置して住民サービスを行っているが、各区には公選の区長が設けられておらず、強い権限が与えられていません。
    このため、新たに地域に生じた問題などについては、大阪市長が最終責任者として決裁をすることになるが、狭いけど人口が巨大な大阪市全域について、1人の市長だけで地域の実情に応じた判断を行うのは困難となっています(広すぎる大阪市)。

大阪都構想は、上記のような現状認識をもとに、大阪市を特別区に再編することで、「広域行政は大阪府、地域行政は特別区」という新たな枠組みを設けよう、ということを目的として提唱されています。

大阪都構想の推進派によると、このような広域行政の一本化によって、府と市の二重行政(府市合わせ)の解消がなされるとされています。

都構想実現によるデメリット

以下、大阪の市議会と市役所の関係者の立場から2点、大阪市民の立場から1点あります。

  1. 一般の大阪市民には関係がない話ですが、都構想反対派の一番大きな理由にもなる話が、既得権益化した一部の固定票を目当てに、大阪市議会で当選を続けてきた議員の死活問題です。
    彼らにとって、大阪市議会がなくなり、新しい選挙制度の区議会で当選しないといけない難しさがあるので現状維持を望みます。
  2. 府市両方の仕事をする政令市としての大阪市がなくなり、普通の市に準じる特別区へ移行し、役所自体の役割は少し変更されます。
    一般の大阪市民には影響はありません(※)が、大阪市から特別区または府へ異動になる職員の仕事の範囲が変わります。
    ※従来は、府市の双方のサービスを大阪市から一括で受ける形だったのが、府のサービスは大阪府から、市のサービスは特別区から、それぞれ受ける形に変わるだけなので、大阪市民にはマイナスの影響は出ません。
  3. 住所表記の変更で「大阪市」が消え、変更の手続きも発生する可能性あり。
    住所は、都構想の実施が確定してから移行するまでの間に住民の意見を反映しながら決めますが、行政当局で考えている表記変更ルールは、以下で、従来の住所よりは長くなりそうです。

    原則、「大阪市○○区(行政区名)◇◇(町名)」が「大阪府△△区(特別区名)○○(行政区名)◇◇(町名)」へ
    ※ただし、以下のいずれかの場合、例外的に行政区名を省略

    ・特別区と行政区が同名の場合
    ・特別区と行政区が方位を示す名の場合
    ・行政区名と町名が同名の場合

    年賀状の宛先住所の書きミスが発生したり、郵便番号の変更手続きや公的証明書類の券面に記載された住所表記の変更手続きが発生したりする可能性があります。

    Q.郵便番号の変更は必要?

    A.大阪市副首都推進局の窓口担当者に電話で問い合わせたところ、ご回答は以下。
    「都構想への移行が住民投票で確定した場合、住所の数が増えたり減ったりはしないので、住所に割り当てられた従来の郵便番号をそのまま、使用できるよう、日本郵政と交渉して調整します。」

    Q.運転免許証や国民健康保険証など住所変更手続きが必要?

    A.以下は、大阪府のホームページのQAページにおけるご回答です。

    ・住民の皆さんにできる限り手続きをしていただく必要がないように関係機関と調整します。

    ・これまでの市町村合併の事例では、公的な住居表示の変更手続きのうち、運転免許証や国民健康保険証等について必要はありませんでしたが、設置準備期間中において、可能な限り手続きが不要となるよう調整します。

    また、「大阪都」という名称については、11月1日の住民投票とは直接関係がありません。
    「都」の名称は事実上の首都である東京以外に用いるのは適当ではないとのご指摘もあり、住民投票で都構想が可決された場合、「東京都」と同等の機能を有する事は確定しても、可決をもって「府」から「都」へと名称変更されることはありません。

    「大阪都」に変更する場合は、別途、法律で整備する必要があります。
  4. 最後にデメリットとは言えないまで不安要素の1つが、特別区設置によって発生する初期コストと維持コストの回収です。
    コスト高のしわ寄せで、重税低サービスを区民が強いられるか否か?
    松井市長や都構想の制度設計を担った市の副首都推進局では、区民への負の影響はない、または小さいとの認識のようです。
    維新代表の松井市長は、コストは「(大阪の経済成長に向けた)投資に見合う」と主張。

    25~39年度の15年間は特別区全体で各年度17億~77億円の黒字になるとの府と市の財政シミュレーションを踏まえ、安定的な財政運営が見込まれると強調しています。

    上記の件を大阪市副首都推進局に問い合わせたところ、以下のご回答でした。
    特別区4区設置による、初期コストは241億円(庁舎整備費46億円+システム改修費182億円+住所表記変更など諸経費)、維持コストは年50億円(システム等維持費30億円+人件費20億円)です。2025年の移行までは現行の税制を維持しながら、財政調整基金を使ったり、行革による予算ねん出や他の予算配分見直しを通じて回収をやりくりする予定。もちろん、新しい特別区長誕生後は、税徴収の可能性は否定できませんが……」

    また、特別区設置前に大阪市立高を府立高へ移管できた場合に区に残される年間17億円と特別区設置後に府から毎年補給される200億円(10年間)が追加配分され、通常の予算と別に特別区の財源を補えるので、特別区の収支不足は発生しない見込みのようです。

大阪市民の立場に立った具体的なデメリットを見ると、住所変更による一時的不便さが生じたり、「大阪市」の名前や歴史に大変愛着がある方にとっては不満と寂しさが残ったりするでしょう。

都構想の住民投票の特徴

2012年制定の大都市地域特別区設置法に沿って実施される2回目の投票で、住民投票の種類は、次の章で列挙した3番目の法令に基づく住民投票になります。

市選管(大阪市選挙管理委員会)が有効と判断した賛成票か反対票のうち、1票でも多かった方が結論となり、法的拘束力があります。

したがって、有効票のうち賛成が1票でも上回れば、大阪市が廃止されて特別区に移行されます。

住民投票の種類

大阪都構想の住民投票を含めて、全国で行われる住民投票には大きく分けて、以下3種類の方式があります。
なお、住民投票の知識がある方や興味がない方は、本章を飛ばしてお読みください。

直接請求制度に基づく住民投票

地方自治法や市町村合併特例法等の規定による直接請求制度(※)に基づいて、行われる住民投票があります。
地方自治法では直接請求のうち、議会の解散(第76条~第79条)、議員の解職(第80条、第82条~第85条)、首長の解職(第81条~第85条)について住民が請求した場合、住民投票に付さなければならない規定があります。
※有権者の一定数の署名を集めることで、直接に地方公共団体に一定の行動を取らせる請求を行える制度。

この住民投票の結果が、法的な拘束力を持ちます。

条例に基づく住民投票

地方公共団体は住民投票に関する条例を制定して住民投票を行う方法です。
通常は市町村合併の是非など問題とされている案件のみを対象とした特別の住民投票条例に基づいて行われます。
一方で重要な政策について常設型の住民投票条例を制定している地方公共団体もあります。
この場合、投票結果は法的な拘束力を持たない場合が多いです。
特に住民の請求などで条例ができて行われる住民投票では、首長は結果を尊重することが多く、法的拘束力はありません。

法令に基づく住民投票

代表例は、2012年制定の大都市地域特別区設置法に基づく住民投票です。
大都市地域特別区設置法の内容は、道府県の区域内において特別区を設置する場合、特別区が設置される道府県の議会と特別区が設置される予定の市町村(以下「関係市町村」という)の議会の承認を経た上で、関係市町村で住民投票を実施し、各市町村で有効投票の過半数の賛成を要することとされています。
この法律に基づき、2015年5月17日に大阪市特別区設置の住民投票が実施。
いわゆる「大阪都構想」の1回目の住民投票が否決される結果で終わりました。

疑問票の有効と無効の基準

住民投票では原則、投票用紙に「賛成」か「反対」のいずれかを記入することが求められ、「○」「×」は無効票になります。

市選管によると、都構想の住民投票は、公職選挙法を準用。
投票用紙には「賛成」と「反対」のみの記載が原則となっている。
平仮名(「さんせい」「はんたい」)やカタカナ(「サンセイ」「ハンタイ」)での記入も有効とされます。

しかし、それ以外のことを記入すると同法の規定により無効となる恐れがあります。

たとえば、「〇」や「×」の記号や、「YES」「NO」といったものは、有効にはならないとみられます。

一方、「賛正(さんせい)」や「反体(はんたい)」といった誤字は、投票者の意思が伝わるとして、有効となる可能性があるという。

ただ、「賛成です」「猛反対」など賛成や反対の文言に言葉を付け加えている場合、こうした票は有効か無効か判断しづらい「疑問票」とされます。

投票所の記載台に、「賛成」「反対」と記した投票用紙のイラストを貼り付け、正しい記入方法を示しているほか、投票方法を説明した新聞の折り込み広告を約66万部配布。

約1万票という僅差で否決された2015年は、白票以外の無効票は2105票で全体の約0.15%を占めました。

担当者は「基本的には賛成か反対を書くのが大前提。それ以外のことを書くと無効になる可能性が高い」と強調。

都構想が実現した場合のスケジュール

大阪都構想に関する住民投票で可決されると、可決した日の翌日から、大阪市が廃止されて特別区に移行されるわけではありません。

特別区は2025年(令和7年)1月1日に設置されることになりますので、2024年までは現行の制度で運用されます。